関宿まちなみ研究所 HOME Technical report 井戸の水を汲むための扉 ~痕跡を読む(case2-2)~

井戸の水を汲むための扉 ~痕跡を読む(case2-2)~


 前稿と同じ建物の同じ場所です。前回取り上げたのが赤色の破線部分で、今回はその左手、赤色の実線部分です。

 前稿(赤色の破線部分の痕跡)を確認されたい方はこちらからどうぞ。
「壁・風食 ~痕跡を読む(case2-1)」


まずは痕跡探しから

 下の写真は、赤い枠線の背面側です。

 壁の痕跡を確認していて、柱に不審な切り欠きがあることに気が付きました(写真の黄色の矢印)。上下に対であります。おそらく現在は土壁となっている個所にあった開口部の鴨居敷居の痕跡と思われます。

 鴨居や敷居は柱の内側にホゾを付けたり釘を打ったりして止められるのが通常ですが、この鴨居と敷居は柱の角を欠いており、柱が立っている状態で入れられたものと考えられます。つまり、建物が建てられた後の改造によりつけられたものと考えられるのです。こうした建物が建てられた後の改造の痕跡を「中古(ちゅうこ)」といいます。 

 それにしても、この鴨居と敷居はいずれも中途半端な高さにあります。また、この敷居と鴨居によってできる開口部は井戸のすぐ上にあって、どうも人が出入りするためのものとは思えません。などと考えながらも、敷居や鴨居の痕跡を見つけた時の定石通り、開口部にあったはずの建具の痕跡を探すことにしました。

 開口部は現在は土壁となっているため、対面の柱で鴨居・敷居の痕跡を見つけることはできません。が、左側の柱に近づいて角をよく見てみると、・・・・・、ありました。扉をかけるための金具です(上の写真の青い矢印)。そして、金具があるとすれば一つではないはずと柱の角を上に辿っていくと、やっぱりありました。頭がつぶされていますが同じ金具です。

 この二つの金具と先の鴨居・敷居との間隔は同じですから、敷居・鴨居と金具は一連の痕跡で、この敷居・鴨居によってできた開口部には扉が付いていたと解釈できます。それも外開きの。

 ここで、先の疑問点もかなりの部分が氷解しました。中途半端と感じた高さはむしろ井戸に合わせたもので、扉を建物内側から押し開けて、井戸から水を汲み上げたのだろうと。前稿(「壁・風食 ~痕跡を読む(case2-1)」)で書きましたが、この開口があった位置の左手は建築当初は土壁で、井戸は屋外にあったと考えられます。とすると、わざわざ屋外に出て井戸まで行くのではなく、この開口部を使って屋内に居ながら井戸の水を汲むことができたってことなのでしょう。

変遷を頭の中で整理してみる

 痕跡がひととおり読めたところで、この部分がどのように変化したのかを整理してみます。

(1)建築当初は土壁だった(推測)。

※柱内側の痕跡が確認できていないため確実な証拠は得られていませんが、中古で敷居・鴨居が入れられていることや、井戸に接していることから考えると建てられた当初は土壁だったと考えるのが妥当でしょう。

(2)土壁の一部を崩し、鴨居・敷居を入れて開口部とし、扉を入れた。

※金具周りに雨によると考えられる腐朽があるので、井戸は屋外にあったと考えて間違いないでしょう。

(3)扉を外し、鴨居・敷居を取って再び土壁とした。

※扉を外す契機となったのは、井戸が屋内とされ、井戸正面へのアプローチが確保されたためと考えるのが普通でしょう。(3)の改造が行われたのは井戸が屋内にされた時以降と推測されます。

 土壁となっている現在の姿からはとても想像できませんが、痕跡を見ていくと、この建物にそんな時期が、そしてそんな工夫がされていたことが見えてきます。

使われている様子を想像してみる

 いやあ面白い。なんて乙(おつ)な改造をしたんだろう。さすが○○さんの生家だけのことはある。などと感心しながら、改めて使われている姿を想像してみると・・・・、そういえば「扉は外開きだけどどうやって開け閉めしたのかな。」、「鍵はどこでかけたのかな」とか「釣瓶(つるべ)はどこに付いていたのかな」などなど、新たな疑問が湧いてきます。

 またやってしまった。見忘れです。金具を見つけたところで喜びすぎてしまった。痕跡を確認していない以上、これ以上何も言うことはできません。次行った時に再度確認することにします。

~シリーズ 痕跡を読む~

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