関宿まちなみ研究所 HOME Blog Entry,Technical report 壁・風食 ~痕跡を読む(case2-1)~

壁・風食 ~痕跡を読む(case2-1)~


 「痕跡」は建物の過去から現在までの変化をたどるための物的な証拠です。建物を構成する部材に痕跡が残るということは、過去にその痕跡ができるような状態が確かにあったことを示しています。

 ここは三重県内のある歴史的建造物です。ある著名人が生まれた場所に建っているとされる町家で、この写真は通り土間の奥の勝手口にあたる場所です。保存修理を終えて公開が行われていると聞き見学に行ったのですが、「痕跡」にまぶしいくらいに陽が当たっていたため(下の写真の赤い枠の部分)、気になってしようがありません。


こんなに判りやすい痕跡はないのかも・・・

 写真を見ていただくと、柱の表面に四角形の小さな穴がいくつか並んでいるのが分かります(下の写真の黄色の矢印)。これは「小舞穴(こまいあな)」と言われるもので、「貫(ぬき)」(下の写真の青色の矢印)とセットでそこに以前土壁があったことを示す痕跡です。土壁を取り去って開口部とすることは、建物の改造としてはよく行われる改造なので、最もよく見かける(発見機会が多い)痕跡の一つです。

 土壁はご存じの通り、土に藁や砂を混ぜて水で練ったものを塗り固めた壁のことです。ただ、水で練った土をそのまま高く塗り上げることはできないため、竹を格子状に編んだ下地を作り(これを「小舞(こまい)」といいます)、練った土を塗り込み、乾燥させ、下地とともに固めます。

 柱と柱の間には、柱を横につなぐ「貫(ぬき)」が通されています。壁の下地は縦方向の竹を縄で貫に結わえ、さらに縦方向の竹に横方向の竹を縄で結わえます。柱の側面にある四角い穴(「小舞穴」)は、横方向の竹を差し込んで止めるための穴です。小舞穴が、を挟んで等間隔に並んでいることにより、小舞穴が一つの土壁を構成していた一連の痕跡と理解できます。

 この柱にある痕跡は、土壁の痕跡として疑いようがなものなのですが、この個所に土壁があったと考えるには追加して確認しなければならない点がいくつかあります。

 まず最初に考えなければならないのは、この柱がどこか別の建物から移動されてきたものでないかどうかです。古い時代には木材は貴重なものでしたから、一つの建物をすべて新品の木材を使うということは稀なことでした。別の建物で使われていた古びた材料を再利用することが一般的だったといってもよいでしょう。こうした再利用された材のことを「転用材(てんようざい)」といいます。転用材には以前の建物で付いた痕跡がそのまま持ち込まれている可能性があるのです。

 この柱が転用材であるかどうかの確認は、周辺の柱を見ることである程度分かります。下の写真は上の写真の柱の対面にある柱の痕跡です。

 この柱にも、上の写真の柱と同じ小舞穴が、同じ高さであります。このことから、この二本の柱の間には、確かに土壁があったということができるようになります。

 実は、この2本の柱は材種が異なっています。何か意味ありげではありましたが、この部分の観察だけでは答えが出そうになかったので、この点は一旦スルーします。


改造の前後関係を整理してみる

 次に考えなければならないのは、土壁がこの建物が建てられた時につけられたものか、後の改造によりつけられたものかという点です。

 上下2枚の写真を見ると、柱の向かい合う面に小舞穴以外の痕跡が見当たりません。このことから、土壁以外のものがあったことはないことは明らかです。また、小舞穴の並びの両側が少し色が違っているのが分かります。この色が薄い部分は土壁が付いていた部分を示す(「壁アタリ」といいます)のですが、その周囲が黒いのは屋内で火を焚いたことにより付いた煤け(「煤け(すすけ)」といいます)です。さらに、柱の左側には「風食(ふうしょく)」が認められるとともに、水による腐朽と思われる傷が認められます。そして「風食」の上に「煤け」が付いています。

「痕跡」からは改造が行われた絶対年代は分かりません。痕跡の重なり具合からその前後関係が明らかになるだけです。

 以上からわかる改造の前後関係を整理すると、この部分は以下のように変化したことが分かります。

(1)土壁はこの建物が建てられた時からあり、壁の外側(写真①では左側、写真②では右側)は建物外部に面していた。

(2)この部分は壁があるままの状態で屋内とされ、屋内で火を焚いたことによる煤けが付いた。

(3)その後土壁が取り払われた。

 この建物が建てられて以降の、この部分の改造の流れを理解することができました。ただし、(1)~(3)がいつ行われたかについては、痕跡からだけでは分かりません。他の部分の変遷や、古文書、言い伝えなどを細かに吟味していく必要があります。

~シリーズ 痕跡を読む~

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