古建築の説明をする時、まず建物の大きさから説明が始まります。大きさを説明する文章にも多くの専門用語、建築独特の言い回しが現れます。ここをすら~っと通り越さないと、さらに後ろには難関が待ち受けています。
建物の規模の表し方
解説文での建物の規模の表し方はほぼ下記のようなものになります。
「この建物の規模は、桁行(けたいき)○○メートル(××間(けん))、梁間(はりま)□□メートル(△△間(けん))です。」
少し違った言い回しでは、
「この建物の規模は、間口(まぐち)○○メートル(××間(けん))、奥行(おくゆき)□□メートル(△△間(けん))です。」
という場合もあります。
すでにいくつかの専門用語が現れています。少し説明を加えるとしましょう。
まず、「規模」は「建物の大きさ」という意味です。「規模」は一般にも使われる言葉ですから、専門用語という意識なく理解できるかもしれませんが、これも建築独自の言い回しと言えます。
古い建物は基本的に長方形をしています。あるいは、いくつかの長方形の組み合わせです。ですから、二つの方向(縦と横)を示すことである程度大きさを伝えることができます。
次は「桁行」と「梁間」ですが、これはまず「桁」と「梁」を説明する必要があります。「桁」は“建物の長辺方向の屋根を載せる材”、梁は“柱と柱の間に架けられた建物の短辺方向の材”のことです。このことから「桁行」とは建物の長辺方向の長さ、「梁間」は短辺方向の長さのことです。
違った言い回しに出てくる「間口」は“建物の正面側の長さ”のことで、奥行は字のごとしです。梁間・桁行と同じく建物の大きさを二つの方向(縦と横)で表しているのですが、建物の正面を意識した説明ということになります。
最後は「間」です。「間」は寸法の単位(1間=6尺=1.818メートルが一般的)として使われることが多いのですが、ここで使われている「間」は“柱と柱の間”のことを言う古い言い方で、決まった寸法はありません。例えば「間口3間」と言えば、正面に柱間が3つ(柱は4本)あるということです。柱と柱の間は梁でつながれます(上説明参照)から無限に大きくすることはできません。したがって、おおよその大きさが想像できるわけです。そして、実際の長さをメートル表記で示します。
二つの言い回しがある意味
では、なぜこうした独特の言い回しが使われているのでしょうか。それには大きく二つの理由があります。一つは、それが専門用語(あるいは専門的な言い回し)として、少なくとも業界人にとっての共通認識になっているからです。共通認識があることは重要なことです。少なくともこの共通認識を持つ者は同じ使い方をするので、見たものが間違った解釈をすることはありませんし、共通の認識にあれば他の建物との比較が可能になります。
もう一つは、こうした表現には異なる概念や意味が込められていて、文字通りの理解以上の情報を伝えることができるからです。
この点について少し説明します。例えば、桁行・梁間の説明では、屋根の架かり方の情報が含まれています。桁・梁ともに屋根を支える部材ですから、それぞれの長さを知ることで、屋根の架かり方が想像できるわけです。間口・奥行の説明も同じで、間口は建物の正面(つまりは主要な出入口がある)がどちらを向いているかを知ることができます。
また、日本の古い建物の多くは、桁行を正面とすることが断然多いので(こうした形式を「平入(ひらいり)」といいます。)、こうした建物では「桁行」と「間口」はほぼ同じ意味を持ちます。ただ、梁間を正面とする建物も現に存在します(こうした形式を「妻入(つまいり)」といいます。)から「桁行」=「間口」ではありません。
二つの表現が存在することにも意味があり、説明者は建物によりふさわしい説明方法を選択することができますし、読む者はどちらが使われているのかによって、説明者が何に重点を置いているかを知ることができます。
シリーズ:~建物解説文の読み方・書き方~
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