関宿まちなみ研究所 HOME Blog Entry,Technical report 建物解説文の読み方・書き方

建物解説文の読み方・書き方


 文化財に指定されている建造物などを訪れた時、説明文の難しさに読むのをあきらめた方は多いのではないかと思います。その難しさの最大の要因は、専門用語の多さにあるのではないでしょうか。

 説明を分かり易くするためには、平易な言葉・言い回しを用いることは鉄則で、私自身伝える側に回った時には、なるだけ平易な表現に努めていますが、皆さんに分かり易く伝えることは本当に難しいことだといつも思います。

※表題の写真は、重要文化財「堀田家住宅」(愛知県津島市)の説明板
建物入口への動線の導入部にあり、総括的な説明がなされている。


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解説文では書く者も試されている

 専門用語とは、特定の職業、学問の分野、業界等の間でのみ使用され、通用する言葉・用語のことです。建築という業界(学問分野)にも多くの専門用語があります。例えば、建物の部分や部位、様式・意匠、構造など、様々な場面で専門用語が使われます。専門用語をある程度理解していないと、たとえ業界人同士であっても、コミュニケーションを十分に取れないという事態が生じます。外国人同士の会話のように。

 丁寧な解説書では、巻末や註に“用語解説”を入れてくれているものもありますが、“用語解説”と本文を行ったり来たりしながら説明を理解するというのは、難解なパズルを解くようなもので、建築についてしっかり勉強しようと考えている方ならともかく、一般の方には余り実用的なものとはいえません。

 私のような自称専門家も含め、業界人のすべてがその業界に関わる専門用語を本当に理解して使っているかというと、決してそうではありません。専門用語とは言え、その意味、定義は固定的なものではないからです。

 さらに、すべての人が同じ理解の上にそれぞれの言葉を使っているわけではありません。用語の意味の捉え方は様々です。それは、国語辞書でさえ数年に一度は定義に改訂が加えられるのと同じです。

 ですから、“用語解説”は著者や説明者がその用語をどのように理解しているのか(定義)が示されているにすぎないのです。逆に、用語解説を書くということは、自分の用語に対する理解度を世に晒す行為で、良心的ではあるかもしれませんが、勇気が必要なことでもあると思います。

 分かり易い解説を書くということは、まさに、説明する側のその建物に対する理解度が試されている、と言えるのかもしれません。


専門用語は建築好きの共通語

 建築業界の中でも特に古い建物を扱う分野では、初めて聞く建築用語に遭遇することがあります。それは、限られた範囲の地域で、大工さんなどの技術者によって言い馴らされてきている用語が多いからだと思われます。こうした地域性のある用語は、自称専門家にとって一番の難題です。

 大工さんたちと話す機会が多い私などでも、大工さんが交わす技術的な会話は難解で、言葉の意味の取り違えからちょっとした手違いが生ずることは多々あります。しかし、こうした地域で言い慣わされている用語を否定することはできません。というのも、地域で古くから使われてきている建築用語は、その地域の人にとっては当たり前のもので、他の地域では別の名が付けられていますから、どれを正式な呼び名とも言えないからです。知ったかぶりをはせず、恥を忍んで「何のこと?」と、その場その場で確認するしかないのです。

 つまり、「正式な言い方」は存在しないのです。そういう意味では“標準語”と“方言”の関係に似ています。“専門用語”を“標準語”と思ってはいけないのです。

 建物の説明をする時、伝える側はなるだけ分かり易くしようと努めます。具体的には、専門用語を一般的な言葉に置き換えるとか、業界独特の言い回しを避けるとかです。しかし、専門用語を使わない場合には、その分余分な説明が増えて文章が長くなったり、かえって文意が伝わりにくくなってしまうので、全く使わないという訳にはいきません。説明を読まれる(聞かれる)方には、「最低限の専門用語は憶えてくださいね」とお願いしたいというのが本音です。

 専門用語は仲間内で隠語として使われる業界用語ではありません。むしろ建築に関心のある人々の共通語なのです。その意味を正しく知ることができれば、建物の理解は格段に深まるはずですし、同じく関心を持つ多くの人々との共感も得られるのです。

~建物解説文の読み方・書き方~


シリーズ:建物解説文の読み方・書き方

※下記記事もぜひお読みください。

「建物の“規模”の表現法を解説」
「“復元”と“復原”の使い分けを解説」

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