スクラッチタイル


【データ】
 場 所:四日市市諏訪栄町 「すわ公園交流館(旧四日市市立図書館)」
 時 代:昭和4年(1929)
 採 集:令和2年(2020)5月2日

 スクラッチとは“引っ掻き傷”のことで、表面に線状の引っかき傷を付けた煉瓦風の外壁タイルです。

 フランク・ロイド・ライトの設計としてよく知られている「帝国ホテル」(明治村に一部が移築保存されています)の外装に用いられたスクラッチ煉瓦がきっかけとなって、当時ちょうど広まりつつあった鉄筋コンクリート構造建物の外壁材として広まったとされています。

 湿式成形した生地を乾かしたうえでスクラッチを付け、無釉で焼きます。色は茶褐色と表現されるのが一般的ですが、原料に含まれる鉄分などにより焼きによっては黄色味がかっているものもあって変化に富んでいます。


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 さて、このスクラッチタイルが用いられている建物は、三重県四日市市にある「すわ公園交流館(旧四日市市立図書館)」です。

構造・規模:鉄筋コンクリート造2階建建築面積197㎡
年 代:昭和4年所在地:四日市市諏訪栄町22-25
所有者:四日市市
指定等区分:国登録有形文化財(建造物)
指定等年月日:平成15年(2003)1月31日

 昭和4年(1929)市立図書館として建設されたもので、当時四日市銀行頭取、伊勢電気鉄道社長などを務めていた実業家熊澤一衛により、図書2000冊とともに寄贈され、昭和48年まで図書館として使用されました。現在は「四日市市こどもの家」として活用されています。市の繁華街諏訪栄の中心部にある諏訪公園内にあって、市民に親しまれています。

 設計は清水組(現清水建設)の小笹徳蔵(1890~1971)。正面は基本左右対称で、中央に玄関を出してその上をバルコニーにしています。構造は鉄筋コンクリート造ですが、外壁は褐色のスクラッチタイル張りで、基礎部分や柱型上部に白色のセメントモルタルやテラコッタ装飾を用いることでコントラストを付けています。また、スクラッチタイルが持つもともとの陰影に加え、焼きによる色ムラを全体に散らして配置することで、建物の色合いに深みを出しています。また、2階窓下の露台や玄関上部の小さなレリーフなど装飾も豊かです。

 建築年である昭和4年は、鉄筋コンクリート構造が普及し、スクラッチタイルやテラコッタ装飾等が外壁に盛んに使用されるようになる時期で、当時の最新流行に乗った建物と言えそうです。

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