関宿まちなみ研究所 HOME Details,Library 脇町の船板壁(ふないたかべ)

脇町の船板壁(ふないたかべ)


【データ】
 所在地:徳島県美馬市脇町
 (美馬市脇町南町伝統的建造物群保存地区)
 時 代:江戸?
 採集日:2019年1月17日

 “うだつのまちなみ”でよく知られている脇(徳島県美馬市 美馬市脇町南町伝統的建造物群保存地区)で見つけた「船板壁(ふないたかべ)」。

 船板とは、字のとおり船に使われている板のこと。船を解体して一枚一枚の板に戻し壁板として再利用したのが船板壁だ。

 写真の「脇の船板壁」は、脇町の古いまちなみに面してある町家の妻面の漆喰大壁を保護する目的で張られた腰壁である。

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 船板は、元々の船の形状から、厚く長さのある板であるが、端部には曲がりがつけられているものも多い。舟釘を打つための穴が開けられており、この舟釘穴によって船板であることを知ることができる。また、水に浸かったり乾燥したりの繰り返しにより木目がはっきりと現れたり、釘の赤い錆が表れたりと、独特の風合いがあることも大きな特徴である。


 船板が好んで使われる理由を整理してみると、まずはやっぱり実用性である。船板は厚く、長さがあり、節がない。壁板としてはもってこいである。長年の使用で船材としての役目は終えたとしても、壁板としてなら十分に役目を果たしてくれる。むしろ、長年厳しい条件のもとで使われてきたことで、壁板に求められる耐候性への信頼感は高まっているかもしれない。

 次が経済性。古材の再利用であるので経済的であることは言うまでもないが、船がよく使われ、船の更新が頻繁に行われる地域であれば、船板の調達もそう難しくはなかっただろう。一枚一枚形の異なる板を壁に仕立てるには手間が必要だが、それでも江戸時代には板は高価だったので、手間を考慮したとしても経済的だったはずだ。

 そして美観。船板には古材独特の風合いがあり、家具、花器などにも使用される数寄者に好まれる材料のひとつである。今でも人気がある古材だが、中々手に入らない希少品らしい。木造の船自体が使われなくなった今、それもそのはずだ。未使用(船としての使用を終え、再利用されていない)の船板は古材屋さんでも高値で取引されている。壁となっても材料が持つ美しさは維持され、数奇者好みの壁になるのである。


船板壁の小路

 さて、船板がよく使われる地域は、舟運(しゅううん)が盛んだったところだ。脇は吉野川北岸にあり、阿波名産の藍の集積地として栄えた。そうした特産品の輸送には船が盛んに使われた。脇のまちなみは吉野川の河岸段丘上にあるが、吉野川に面する南側の商家では屋敷の吉野川に面した位置に船着き場を備えたものもあるくらいだ。船はこの地域の富を支えてきた道具のひとつだったのだ。

 この吉野川、“坂東太郎”(利根川)、“筑紫次郎”(筑後川)と並び、“四国三郎”の異名を持っている。よく氾濫が起こる“暴れ川”としての異名だ。流域の農家などでは、吉野川の氾濫に備え船を所有していたところが多かったと聞いた。納屋などの軒下に吊り下げられた船を見かけたが、それだ。船は災害時には命とともに家財を守ってくれる存在でもあった。

 船は平時には産業を支え、災害時には人々の命や家財を守る。この地域での暮らしからは切り離すことができない大切な道具だったのだ。そんな大切な道具の断片が、壁となって大切な家を守り続けるのである。こんな風に考える私は感情移入しすぎだろうか。

 写真では、狭い小路の両側が船板壁になっている。この小路は表通りから屋敷裏の船着き場に通ずるもので、小路の先の明るいところはもう吉野川である。船板の安住の地として、これほどふさわしい場所は無い。


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